今。ここ。この時。(ブログ)

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「そういえば、こんな話を聞いたことがあるわ。ある魚が年配の魚に泳ぎよって、『ねぇ、ぼく海って呼ばれているところを探してるんだ』と。年配の魚は『海？それなら今自分がいるところがそうだよ』と答えた。すると、それを聞いた若い魚は、『これ？これは水だよ。ぼくが探しているのは海！』

ディズニー＆ピクサー「ソウルフル・ワールド」より

映画「ソウルフル・ワールド」の中で触れられた、このちょっとした例え話が、映画を観終わった後もなぜか頭の中から消えなかった。どうも私は、この若い魚を自分と重ねて見たような気がする。

私はMBTI性格診断テストでいうINFP型で、もしあなたも仲間だったり、身近にINFP型の人がいたりするなら、この型の人には２つの世界があることを知っているはず ー 一つはありきたりで慌ただしい分刻みの現実社会、もう一つは頭の中に自由に築き上げた魅惑的で楽しいことだらけの自分だけの世界。これは正にINFP型の第２機能として活躍する外向的直観の影響によるものと思われる。普段目に入ってくるものから「こんなことができる！」「あんなことも可能！」と自分を含めた世のため、人のためにワクワクする新しいアイデアを次々と思いつく。映画の中で「スパーク」という言葉が人がそれぞれ抱く夢や情熱を注ぐものとして使われているが、INFPはこの「理想の未来に対するワクワク感」をスパークと感じるきらいがあり、正にこの感覚のために生きていると言っても過言ではない。

学校の音楽教師をしている主人公のジョーの夢はプロのジャズ・ピアニストになること。彼がINFP型かどうかはさておき、自分の真の人生はまだ始まっておらず、その夢さえ叶えることができれば、刺激に満ちた魅惑的な人生が始まると信じている。ジョーはその夢のことに必死でそれ以外のことは眼中になかったが、ひょんなことからジョーがメンター（道先案内人）を務めることになった亡霊の22番が経験する別の「自分」を垣間見る。自分のやりたいことが見つからず、亡霊生活から抜けきれない22番もまた、ジョーの身体で地上を徘徊するうちに、それまでに気づかなかった小さくても大事な人との交流について学んでいく。

冒頭の魚たちの話は、ジョーが業界で名を馳せる憧れのジャズ・ミュージシャンと連日同じステージで演奏できるという正に長年の夢が叶ったときに、そのミュージシャンがジョーに向かって語ったものである。ジョーの夢は叶った ― でも実際には何も変わらない。ずっと心の中で思い描いていた夢の実現と同時に起こるはずの時めき、達成感、周りからの羨望など何もない。それよりも22番に否応なく付き合わされた一日に起きた日常の出来事の方がよほどスリルや充足感を伴う「生きる」という感覚を得たことに気づく。

INFP型は日常から離れて自分の頭の中に、いろいろな楽しいアイデアを次々に思い描き、実際に自分の目の前で起こっていることを見過ごす傾向がある。INFP型に限らず、矢継ぎ早に何かを要求される情報過多の現代社会に生きる人間であれば誰しも、人生を生きていく上で最も重要な、自分は生きていると感じる時間、経験、交流などをもつことを疎かにしがちである。作家になるという半生に亘る夢をもつ私は、正にこのジョーと同じように考えていた。この夢が叶えば人生バラ色に変わる、真の自分を評価されると。

でも、そうだろうか。夢をもつことも大事だが、人と交流してそれまで気づかなかったことに気づいたり、それぞれの強み、弱みを補い合ったりして、人として成長することも大事なのではないか。努めてそうした訳でないにしても、ジョーと22番が互いの影響で一回り大きくなったように。ジョーは少し勇気を出して人付き合いに一歩踏み込むことができれば、日常の周りの人たちともっと意味のある時を過ごせることに気づかされ、22番は幸か不幸かずっと恐れていた地球の現実世界に放り込まれ、それまで未知だったことを次々と体験し、そこから「生きる」ことに喜びを見出す。

INFP型の方も、そうでない方も、この映画「ソウルフル・ワールド」は人生について、また自分の生き方について、ふと振り返って考えさせられ、また気付きを与えてくれるだろう。私は「今、ここ、この時」に集中する大切さを改めて心に噛みしめ、またその理由としてこんな名言を思い出した。

「生きていく上で最も大切なことは、人を助けることである」

ダライ ラマ